「安政地震津波と濱口梧陵」第20回稲むらの火講座
2024年04月09日 21時52分
広川町出身の偉人、濱口梧陵(はまぐち・ごりょう)を研究している専門家らを講師に招いて開かれる広川町にある稲むらの火の館主催の第20回「稲むらの火講座」がこのほど(3/16)開かれ、県立博物館の学芸員が、「安政地震津波と濱口梧陵」と題して講演しました。
和歌山県立博物館の学芸員を務める前田正明(まえだ・まさあき)さんは、県内各地で、古文書や文化財を調べて、過去にその地域を襲った災害を掘り起こし、「先人たちが残してくれた『災害の記憶』を未来に伝える」というタイトルで、地域ごとにまとめた冊子を、2015年からおととし2022年にかけて7冊発行しました。そして前田さんは、湯浅町と広川町にも調査に訪れ、寺や民家に残された古文書や文化財を詳しく調べて2021年1月、湯浅町・広川町の冊子を発行しました。
講演では、はじめに2012年に濱口梧陵の子孫から和歌山県立図書館に寄贈された西濱口家の蔵書を、濱口梧陵文庫として整理しまとめた、県立図書館の松本泰明(まつもと・やすあき)さんによる調査結果が示され、蔵書の8割に梧陵の押印があり、梧陵自身の蔵書とみられることや、東南アジアの地理を記した書籍などに手書きのメモがあることから、前田さんは、「梧陵は、知識人として海外情報を取得し、自らの行動を起こそうとしていたのではないか」と指摘しました。
また、濱口梧陵が養子に入った西濱口家と、もう一方の東濱口家、さらに、西濱口家と同じように広村から千葉県銚子市に出て醤油の醸造業を行っていた岩崎家と古田家の4つの家が、梧陵が生まれる前の1815年、関東進出にあたって、広村に何かあった時のための資金を積立講という形で確保していたことを明らかにしました。
また、前田さんは、古田庄三郎が記した安政聞録(あんせいもんろく)に描かれている「日本国中地震津波安否早見全図」を紹介し、安政の南海地震で激しい揺れに見舞われた地域を赤で、津波の被害があった地域を青で表示し、被害のなかったところを黄色で表している」と説明した上で、「この地図は、ほとんど世に知られていないが、当時、全国規模の被災地図を添えた記録は他になく、上方や江戸の豊富な情報を集めることができた広村の商家だからこそ制作できた」と強調しました。
講演で、前田さんは、和歌山県内で行ってきた調査を振り返り、「まだ世に出ていない資料を探し出すのが楽しかった」と語り、稲むらの火の館の﨑山光一(さきやま・こういち)館長も、「もし自宅に古い書き物などがあれば、きれいに整っていなくてもよいし、こちらから専門家につなぐので、そのままの状態ですぐに館(やかた)に知らせてほしい」と呼びかけました。