辻原登氏講演 第136回和歌山放送情報懇談会
2023年06月14日 19時42分
和歌山放送の情報懇談会がきょう(6月14日)、和歌山市で開かれ、印南町出身の芥川賞作家、辻原登(つじはら・のぼる)さんが講演し、ふるさと和歌山の偉人、陸奥宗光(むつ・むねみつ)について語りました。
和歌山放送情報懇談会は、1992年12月に発足して以来、30年以上にわたって講演会やシンポジウムを開催していて、今回で第136回を迎えました。
きょう午後1時半から和歌山市のホテル・グランヴィア和歌山で開かれた講演会では、日経新聞の朝刊で「陥穽 陸奥宗光の青春」を連載中の辻原さんが、「大いなる幻影~陸奥宗光とは誰か」と題して講演しました。
この中で、辻原さんは、陸奥宗光が外務大臣としてまとめた日清戦争の後の講和条約に対し、ロシア、フランス、ドイツの三国が、遼東半島の日本への割譲について、三国で返還を求めて干渉してきた際のエピソードを紹介しました。
辻原さんは、「陸奥が、結核で療養中に開かれた御前会議で、三国干渉をはねつけることを決めたことに立腹し、伊藤博文総理大臣に対し、『講和条約の締結にあたって、遼東半島の割譲に、ロシアが怒ってくるのはわかっていたが、これを求めなければ、戦勝国として、日本国民が納得せず、内政の危機を迎えていた。これからもさまざまな戦争が続いていく中、涙を呑んで遼東半島をあきらめることで国民のエネルギーを引き出すことができる』と説明したことに触れ、「これが、国家百年の計と言える」と指摘し、「この頃、捲土重来を期して臥薪嘗胆という言葉が広まった」と強調しました。
また、辻原さんは、「兵庫県知事をやめた後、和歌山で徴兵制を敷いて2万人の軍隊を組織した陸奥宗光が、西南戦争の折に、土佐立志社の政府転覆計画に加担したとして、4年間の投獄生活を送った際、マキャベリやベンサムなどの書籍を読み、政治とは人を幸福にする技術で、何が人にとって幸福なことか、万人が幸福になれない中で、どうすればよいかを考えるようになった」と指摘しました。
講演の後、新聞連載のタイトルを「陥穽(かんせい)」とした理由について質問を受けた辻原さんは、「陥穽は、神が仕掛けた試練、落とし穴という趣旨で、陸奥は、政治的な闘争の中で、落とし穴にはまるものの、また立ち上がってきた。陸奥は、監獄で人生を学び、生まれ変わった」と答えました。
会場には、岸本周平(きしもと・しゅうへい)知事や仁坂吉伸(にさか・よしのぶ)前知事も聴講に訪れ、辻原さんの講演に聞き入っていました。