日本最古のあんこ屋、廃業へ 100年超の歴史に幕

2022年08月25日 19時25分

社会経済

あんこの製造業者として日本で最も長い歴史を持つ、和歌山市の「株式会社きたかわ商店」が来月(9月)いっぱいで廃業し、100年以上に及ぶ歴史に幕を降ろすことになりました。

店舗の入り口に貼られたお知らせ(2022年8月22日・和歌山市東紺屋町で)

「きたかわ商店」は、明治43年、1910年に大阪市の北川製餡所から独立開業してあんこの製造を始めた、100年以上の歴史を持つ日本で最も古いあんこ製造の会社で、和歌山県内外の和菓子店などにあんこを提供するとともに、昭和56年、1981年からは、和菓子店「一寸法師」を開店し、オリジナル和菓子の小売販売も行ってきました。

社長を務める内藤和起(ないとう・わき)さん68歳は、3年ほど前から、急変する経営環境の変化に対応できていないと感じるようになり、今後の営業について検討してきましたが、コロナ禍や後継者問題などもあり、企業買収を画策し、一度は、ほぼ決まりかけましたが、増設を重ねた工場に、建築基準法上の問題のあることがわかり、去年3月、不調に終わりました。その後、さらにのれんの売却を検討しましたが、従業員の雇用が守られないことがわかり、最終的に廃業することを決め、先月(7月)25日、12人の従業員に対する説明会を開き、9月末の廃業まで全員、仕事に従事することを確認しました。

内藤さんは、「従業員に説明するのが最もつらかったが、全員、最後まで勤めてくれることになり、うれしかった」と話しました。

廃業を決めた内藤さん

その上で、内藤さんは、100年以上の歴史を持つ会社の廃業について「従業員や業者さんに助けられながら、祖父から母へ、そして私が継承してきたあんこ屋の歴史の重さは十分、承知していますが、物事には潮時があって、最悪の状態ではなく、最小限の迷惑にとどめることができるときに、自分の希望するタイミングで幕を降ろせることを幸せに思っています」と話しました。

きたかわ商店からあんこを納入している和菓子店などの取引先およそ100件については、代わりの納入先を紹介するなどして対応しているということです。

和菓子を小売りしている一寸法師の店舗(和歌山市東紺屋町)

また、和菓子を販売している「一寸法師」の顧客には、ホームページなどで閉店のお知らせを行っています。

内藤さんは、「きたかわ商店の廃業に伴って、一寸法師も閉店します。あんこ屋をやめても、一寸法師は続けてほしい、と言ってくださるお客様もいますが、自分のところで作ったあんこを使ってこその一寸法師だったので、この機にどちらも終わりにさせていただきます。長い間、ご利用いただき、ありがとうございました」と話しました。

また、買い物に応じて付与していたポイントについて、内藤さんは、「長く貯めてくださっていたお客様もいるので、9月30日までの営業中に利用してほしい」と呼びかけています。

和歌山県菓子工業組合によりますと、きたかわ商店の廃業で、県内のあんこ製造業者は、3者のみになるということで、事務局長の高橋義明(たかはし・よしあき)さんは、「あんこの納入先は、ほとんどが和菓子店。和菓子は江戸時代に完成したもので、当時といまでは、文化や風習が大きく変化し、例えば、普段から茶席を設けるなどの文化は、いまや残っていない。大手の和菓子店やコンビニエンスストアの影響で、小さな和菓子店の生き残りが難しく、あんこの納入先は、昔と比べて大きく減っている」と指摘し、あんこの製造業者や和菓子店にとって、今後も厳しい状況が続くという見方を示しています。

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