てんかんで世界初の発見、重症度に関する脳機能指標
2021年02月02日 19時26分
和歌山県立医科大学は、このほど(1/29)、てんかんの重症度に関連する脳機能の指標を世界で初めて発見したと発表しました。この論文は、すでに科学誌の電子版に掲載されていて、大学は、今後、患者1人1人の症状に応じた治療の方針決定や病態の解明などにつなげたいとしています。
先月29日に和歌山市の県立医科大学で開かれた記者会見には、医学部脳神経外科学講座の中井康雄(なかい・やすお)助教と中尾直之(なかお・なおゆき)教授、それに生理学第1講座の金桶吉起(かねおけ・よしき)教授の3人が出席しました。
てんかんは、脳の一部の神経細胞が過剰に興奮して、けいれんや意識の消失などの発作を引き起こす慢性神経疾患で、罹患率は、およそ100人に1人、発病率は10万人あたり年間45人とされています。薬物治療が基本で、7割から8割の患者は、この治療で治りますが、残る2割から3割の難治性てんかんの患者には、外科治療が必要となります。しかし、手術をしても発作が治まらないことがあり、中井助教らは、脳内の状態を評価するため、安静時機能的MRIを使って脳機能のネットワークを解析し、導き出した数値とてんかん患者の重症度との関連について調べました。
調査は、難治性部分てんかん患者25人と健常者582人を対象に行われ、388に分けた脳の領域ごとに、健常者のデータをもとに正常な範囲を決めた上で、患者の数値と比較しました。その結果、難治性部分てんかん患者の方が、健常者より異常値を示す脳の領域が多く、患っている期間が長いほど、また、薬が効きにくく発作が多いほど、異常な領域の多いことがわかりました。
こうした結果を受けて、中井助教は、「この調査で得た正常な値の範囲と患者の数値とを比較することで、手術の必要性を見極めるヒントなど、患者1人1人の脳の状態にあわせた治療方針の決定や、治療の効果判定、てんかんの病態解明に活かせる可能性がある」と話しました。
また金桶(かねおけ)教授は、「今回得られたデータは、うつ病や統合失調症などの治療にも生かすことができる汎用性のあるもので、この研究が進めば、脳の病気の早期発見、早期治療につながる」と述べ、MRIのデータを提供してくれた健常者に感謝の意を示すとともに、今後も協力してくれる健常者のボランティアを募っていく考えを強調しました。
この研究成果は、英国科学誌ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」・電子版に掲載されています。